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剥離剤と表面自由エネルギー:濡れと剥離の相関

2026.1.1 更新

カテゴリー 用途やさしいせつめい分析・測定その他設備剥離剤ポリエチレン原料剥離紙

◆ なぜ表面自由エネルギーが剥離剤で重要なのか

剥離紙の役割は、粘着剤をしっかり支えつつ、必要なときには気持ちよくはがすことである。 この「ちょうどよいはがれやすさ」を設計するうえで、剥離剤の表面自由エネルギー(surface free energy)は重要な指標となる。

  • 表面自由エネルギーが高い表面:液体や粘着剤がよく濡れる(広がる)→ くっつきやすい傾向
  • 表面自由エネルギーが低い表面:液体や粘着剤がはじかれる → くっつきにくい傾向

シリコーン剥離剤は、まさにこの「低表面自由エネルギー」を利用して、粘着テープやラベルがくっつきすぎないように制御している。

◆ 表面自由エネルギーとは何か

表面自由エネルギー(固体表面エネルギー)?γS は、ざっくり言えば 「表面を新しく 1 m2 作るのに必要なエネルギー」を表す量であり、単位は mJ/m2 などで表される。

  • 金属・ガラスなどの高エネルギー表面:強い結合でできており、表面を増やすとエネルギーが大きく増える → γS が高い
  • ポリオレフィン・フッ素樹脂・シリコーンなどの低エネルギー表面:分子間力が弱く、表面を増やしてもエネルギー変化が小さい → γS が低い

一般に、高エネルギー表面は濡れやすく、接着しやすい。一方、剥離剤には「濡れにくく、くっつきにくい」性質が求められるため、できるだけ低い表面自由エネルギーが好まれる。

◆ 濡れと接触角:Young式

液滴が固体表面の上にのっているとき、液滴の端(トリプルライン)では液体・固体・気体の三つの界面張力がつり合っている。 このときの液滴の形(接触角 θ)と界面エネルギーの関係は、いわゆるYoung式で表される。

γSG = γSL + γLG cosθ

  • γSG:固体-気体界面の表面自由エネルギー
  • γSL:固体-液体界面の界面自由エネルギー
  • γLG:液体-気体界面の表面張力
  • θ:接触角

接触角 θ が小さい(液滴が広がる)ときは濡れやすく、θ が大きい(液滴が丸くなる)ときは濡れにくい。 したがって、接触角の測定は、表面自由エネルギーや濡れ性を評価するための基本ツールとなっている。

◆ Young?Dupre式と「付着仕事」

濡れやすさと接着の強さを結びつける概念が、Young?Dupre式で定義される付着仕事(work of adhesion) Wである。 液体(L)と固体(S)の界面について、次の関係が成り立つ。

WSL = γL (1 + cosθ)

  • WSL:液体-固体界面の付着仕事
  • γL:液体の表面張力(液体-気体界面)
  • θ:接触角(Young角)

WSL は「液体を固体表面から完全にはぎ取るのに必要な仕事」と解釈できる。

  • cosθ が大きい(よく濡れる) → WSL が大きく、強く付着
  • cosθ が小さい(ほとんど濡れない) → WSL が小さく、弱く付着

この式は本来液体(水・有機溶媒など)の濡れで導かれたものであるが、粘着剤も「高粘度の液体」とみなせるため、圧力敏感粘着剤(PSA)と剥離剤の界面についても同様の考え方を応用することができる。

◆ 高エネルギー基材と低エネルギー基材

表面自由エネルギーの観点から、基材は大まかに次のように分類できる。

  • 高エネルギー基材
    金属(Al、Cu、鋼など)、ガラス、酸化膜表面など。
    γS が数十~数百 mJ/m2 と高く、水滴はよく広がり、接着剤も強く付着しやすい。
  • 低エネルギー基材
    ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、PTFE、シリコーン樹脂など。
    γS が 10~30 mJ/m2 程度と低く、水滴は玉になりやすく、多くの接着剤はそのままでは十分に濡れない。

剥離紙に塗られるシリコーン剥離剤層は、意図的に非常に低表面エネルギーの表面を作り出すことで、粘着剤との付着仕事を小さくし、「はがれやすさ」を得ている。

◆ シリコーン剥離剤の低表面エネルギーと剥離性

シリコーン剥離剤で形成される PDMS 系表面は、典型的には 20 mJ/m2 前後の非常に低い表面自由エネルギーを示し、多くのアクリル系・ゴム系 PSA から見て「濡れにくい」表面となる。

その結果、次のような効果が得られる。

  • PSA がシリコーン剥離層に深く入り込みにくい
  • 界面の付着仕事 WSL が小さくなる
  • 剥離試験での剥離力(peel force)が低く抑えられる

各社のシリコーンリリースコーティング技術資料でも、「低表面エネルギーにより、粘着剤とライナー間の付着を制限し、容易な剥離を実現する」ことが繰り返し説明されている。

◆ 表面エネルギーだけでは決まらない「剥離力」

ただし、「表面エネルギーが低い=必ず剥離力が低い」とは限らない点に注意が必要である。 実際の剥離力には、表面自由エネルギー以外の要素も強く影響する。

  • 粘着剤の粘弾性(剥離速度・温度による変化)
  • 剥離剤層の架橋密度・表面硬さ(低架橋だと PSA が食い込みやすく剥離力が上がる)
  • 界面近傍の化学的相互作用(シリコーン-PSA 間の相溶・反応など)
  • 表面粗さ・実効接触面積
  • 摩擦・スリップ挙動(「滑りやすさ」)

実験・研究レベルでは、「同程度の表面エネルギーを持つ表面でも、剥離力が大きく異なる」例が多数報告されており、表面自由エネルギーは重要な基礎指標ではあるものの、それだけでは剥離挙動を完全には説明できないことが示されている。

◆ 測定と設計への活かし方

剥離剤・剥離紙の設計において、表面自由エネルギーは次のように活用される。

■ 接触角測定による表面エネルギー評価

既知の表面張力を持つ複数の液体(例:水、ジヨードメタンなど)の接触角を測定し、Owens?Wendt 法などのモデルにより、表面エネルギーの分散成分・極性成分を推定する。

■ 粘着剤との「相性」の一次スクリーニング

PSA 側の性質(極性・分散力など)と組み合わせて、「濡れすぎないが、全く濡れないわけでもない」範囲を狙い、候補となる剥離剤グレードを絞り込む。

■ 剥離力データとの相関確認

接触角・表面エネルギーから Young?Dupre 式を用いて付着仕事 WSL をおおまかに見積もり、実測剥離力との傾向を比較する。 そこで得られた差は、粘弾性や表面硬さ、界面化学など他の因子によるものと考え、設計指針を補正していく。

■ グレード間の相対比較ツールとして

シリコーン剥離剤グレードごとの表面エネルギー、剥離力、PSA 種類をマトリクスとして整理し、用途別に最適な組み合わせを選定する際の「座標軸」として用いることができる。

◆ まとめ

  • 表面自由エネルギーは、濡れ・接触角・付着仕事を通じて、剥離剤と粘着剤界面の「付きやすさ/付きにくさ」を支配する基礎指標である。
  • Young 式と Young?Dupre 式により、「よく濡れるほど強く付着する」という直感を定量的に説明できる。
  • シリコーン剥離剤は、非常に低い表面自由エネルギーを利用して、粘着剤との付着仕事を小さくし、容易な剥離と低転移性を実現している。
  • 一方で、実際の剥離力は、粘着剤の粘弾性や剥離剤層の架橋密度・表面硬さ・界面化学など多くの因子に依存するため、表面自由エネルギーだけで全てが決まるわけではない。
  • したがって、表面自由エネルギーを「剥離紙設計の基礎座標軸」として活用しつつ、剥離力測定・加速試験・実ライン評価と組み合わせて、総合的に最適設計を行うことが重要である。

◆ 参考文献・出典(例)

表面自由エネルギーと濡れ・接着に関する代表的な情報源の一例を示す。

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