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シリコーン系剥離剤の架橋反応メカニズム

2026.1.1 更新

カテゴリー 用途やさしいせつめい分析・測定その他設備剥離剤ポリエチレン原料剥離紙

■ はじめに ― 剥離剤における「架橋」の役割

シリコーン系剥離剤は、紙やフィルムなどの基材表面に薄いポリシロキサン層(Si-O-Si骨格)を形成し、その低表面エネルギーによって粘着テープ・ラベル・保護フィルムなどの「はがれやすさ(剥離性)」を調整する材料である。

ポリシロキサン層が低表面エネルギーを示す主な理由は、次の2点にある。

  • Si-O-Si主鎖の自由度・柔軟性が大きい
     シロキサン結合は C-C 主鎖に比べて回転自由度が大きく、分子鎖が表面近傍で再配向しやすい。その結果、表面にエネルギーの低い官能基が優先的に並ぶ構造をとりやすい。
  • 側鎖のメチル基(-CH3)が空気側へ配向しやすい
     ポリジメチルシロキサン(PDMS)では、主鎖の外側に多数のメチル基が存在し、分子鎖の柔軟性によりメチル基が表面側に向かって配列する傾向を持つ。メチル基は分極が小さく、分子間相互作用が弱いため、表面自由エネルギーが低くなる。

このような表面構造により、ポリシロキサン層は「ぬれにくい」「粘着剤が内部に入り込みにくい」という性質を示し、結果として安定した剥離挙動を発現する。

このとき重要になるのが、ポリシロキサン鎖同士を三次元的に結びつける「架橋(crosslinking)」であり、架橋の進み方・分布・密度が、以下のような特性に直結する。

  • 剥離力(軽剥離~重剥離)のレベル
  • 剥離力の速度依存性(泣き別れなど)
  • 耐熱性・耐ブロッキング性
  • シリコーン転移・ブリードの起こりやすさ

剥離紙分野の中でも剥離性能の高度な制御を要望される用途においては、白金触媒を用いる付加反応(架橋)型(ヒドロシリル化型)の剥離剤が用いられており、高速コーターへの適合性・短時間硬化・低残渣といった点でも実用性が高い。本項では、この付加反応型を中心に解説する。

■ 付加反応型(白金触媒・ヒドロシリル化型)

◆ 基本反応:ヒドロシリル化(Hydrosilylation)

付加反応型シリコーン剥離剤は、一般に以下のような組み合わせで設計される。

  • ビニル基(-CH=CH2)を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)
  • Si-H(ヒドロシリル基)を有する架橋剤
  • 白金錯体触媒(Karstedt触媒など)

白金触媒の存在下で進行するヒドロシリル化反応は、概念的には次のように表される。

Si-H + CH2=CH-(シロキサン鎖) →(Pt触媒)→ Si-CH2-CH2-(シロキサン鎖)

すなわち、Si-H が C=C 二重結合に付加して Si-C 結合が生成し、ポリシロキサン鎖同士が三次元的に結びつくことで架橋構造が形成される。この反応は副生成物をほとんど生じないことが大きな特徴であり、剥離剤用途における低残渣性に直結する。

◆ 白金触媒と反応メカニズム

付加架橋型で用いられる白金触媒としては、Pt(0)-ビニルシロキサン錯体(Karstedt型)などが代表的である。詳細な有機金属反応機構は専門的になるが、簡略化すると次のように理解できる。

  • Si-H が Pt に酸化的付加する
  • ビニル基(C=C)が Pt-H 結合に挿入する
  • 還元的脱離により Si-C 結合が生成し、Pt触媒は再生する

現場レベルでは、「白金が Si-H と C=C の間を仲立ちし、新しい Si-C 結合を作らせる触媒」と理解しておけばよく、詳細な配位子構造や中間体の解析は研究開発段階での検討事項となる。

◆ 剥離紙用途における利点

剥離紙向けに用いられる利点としては、次のようなものが挙げられる。

  • 剥離強度の選択肢が多い
     剥離剤の品揃えが豊富で、用途や粘着剤に合わせて自由に剥離強度を設計可能である。特に、両面剥離紙においては、表裏に安定して剥離差をつけるなどの高度な設計が必要な場合、有利である。
  • 副生成物がほぼ出ない
     縮合型のようなアルコール・水などの副生成物がなく、残留低分子が少ないため、粘着剤への転移や臭気が抑えられる。
  • 硬化が速い
     比較的低温~中温で反応が進行し、数十秒オーダーの短時間で硬化させることも可能であり、高速コーターに適する。
  • 基材の選択幅が広い
     紙・PEラミネート紙・プラスチックフィルムなど、多様な基材に対応しやすい。
  • 架橋密度の制御がしやすい
     ビニル基量/Si-H量、Pt濃度、硬化温度・時間などにより、軽剥離~重剥離まで剥離力を精密に調整できる。

◆ 実務上の注意点(触媒阻害とライン適合性)

付加反応型で特に重要となるのが「触媒阻害(inhibition)」である。白金触媒は、特定の成分と反応・吸着することで活性を失うことがあり、次のような物質が阻害要因として知られている。

  • 硫黄を含む化合物(ゴム配合剤・一部紙薬品の残渣など)
  • アミン、リン、スズを含む化合物
  • 一部の印刷インキ、顔料表面処理剤、界面活性剤

これらの阻害要因が存在すると、次のようなトラブルが発生しうる。

  • 環境影響(湿度等)によりラボでは硬化していた配合が、実ラインでは硬化不良になる
  • 塗膜端部や印刷の上だけ硬化が遅れる/止まる
  • ロットや製造条件により剥離力が大きく変動する

そのため、付加反応型シリコーン剥離剤を採用する際には、「基材(紙・フィルム)×インキ×プライマー×粘着剤」の組み合わせごとに、実ラインを模した条件で硬化性と剥離性能を確認することが重要である。

◆ 架橋密度と剥離挙動の関係

付加反応型シリコーン剥離層の表面は、架橋密度によって次のような傾向を示す。

  • 低架橋(架橋密度が低い)
     柔らかく、粘着剤が表面内部に入り込みやすい → 剥離力が重くなりやすく、場合によっては転移やブリードが起こりやすい。
  • 高架橋(架橋密度が高い)
     硬めでガラス状に近い表面になり、粘着剤は表面に乗るイメージ → 剥離力が軽くなり、耐熱性・耐溶剤性も向上しやすい。

実務的には、次のような設計パラメータを調整しながら、目標とする剥離力とコートライン条件のバランスをとる。

  • ビニル基当量/Si-H当量比
  • Pt触媒濃度
  • 硬化温度(オーブン条件)と滞留時間

これらを適切に設計することで、軽剥離・中剥離・重剥離といった剥離グレードを作り分け、用途ごとに最適な剥離紙を提供することが可能になる。

■ 縮合反応(架橋)型シリコーン

縮合反応型シリコーンは、シラノール基(Si-OH)やアルコキシシラン(Si-OR)を含むポリシロキサンが、縮合反応によって Si-O-Si 結合を形成するタイプの架橋系である。

代表的な反応は、以下のように水やアルコールを副生成物として放出しながら進行する。

  • Si-OH + HO-Si → Si-O-Si + H2O
  • Si-OH + RO-Si → Si-O-Si + ROH

触媒としては有機スズ化合物が用いられることが多く、室温~中温でも硬化させやすいロバストな系である。一方で、副生成物(アルコールや水)が発生するため、厚膜では内部硬化に時間を要し、残留低分子によるブリードや臭気が問題になる場合がある。

剥離紙用途では、コスト重視の製品や条件限定の用途では広く採用されている(本項では参考レベルの位置づけとする)。

■ ラジカル反応(架橋)型シリコーン(過酸化物硬化)

ラジカル反応型は、有機過酸化物が加熱分解して生じるラジカルによって、不飽和基(ビニル基など)を架橋する方式である。生成する架橋は主として C-C 結合であり、高温(おおよそ 150~200 ℃)で一気に反応を進めることができる。

この方式は、厚膜のシリコーンゴムや成形品、粘着剤側の補強などには適している一方で、高温条件や分解副生成物の残存といった観点から、紙基材のシリコーン剥離剤としては限定的な用途にとどまることが多い。

剥離紙においてラジカル反応型を意識する場面は、むしろ「シリコーン粘着剤側の硬化方式」との組み合わせ・相互作用(剥離力の速度依存性など)を評価するときであり、剥離剤そのものとしては付加反応型もしくは縮合反応型が中心である。

■ 参考URL

付加反応型シリコーン剥離剤やヒドロシリル化反応の理解を深めるための外部情報の一例を示す。

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